PLAYS SCHUMANN 2014
新たな金字塔、横山幸雄 初のシューマン・ピアノ・アルバム
横山幸雄/プレイズ・シューマン2014
横山幸雄が問う自身初のシューマン・ピアノ・アルバム。ここで横山が選曲した曲は、シューマンのピアノ作品中、最高傑作とも言われるクライスレリアーナ、そして極めて高いレベルの技巧と音楽性を要求されるピアノ・ソナタ1番という、いかにも当代一流のヴィルトゥオーゾとして名を馳せる横山らしい大曲の選曲である。
40歳を超えてまさにピアニストとして円熟の境地に達しつつあり、従来の完璧な技巧とともに、ダイナミックでスケール感溢れる「動」と、時にささやくような究極のソット・ヴォーチェ「静」のマリアージュは、聴き手を深い感動の境地に誘う。このアルバムは、成長著しい「今」の横山の非凡な才能を刻んだ金字塔として記憶される名盤であろう。
■収録曲目 R.シューマン(1810 – 1856)
1クライスレリアーナ作品16
2ピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調作品11
■このアルバムについて(柴田龍一)
横山幸雄が我が国のピアノ界における最もビッグな存在としての地位をゆるぎないものにしたのは、10年以上も前のことと考えてよいだろう。そして、現在の彼は、見事に脂の乗り切った状態にあり、まさに絶頂期にさしかかっているといっても過言ではないだろう。このアルバムは、まさにそれを如実に感じさせる内容になっている。
横山がシューマンのピアノ作品をレコーディングしたのは、今回が初めてであるが、彼自身の言葉によると、それは偶然の結果であり、シューマンは、以前から特意なレパートリーのひとつであったという。そして、この最新録音に接した筆者は、このピアニストがさらに大きな成長を示し、コンサート・ピアニストとして極めて高い境地を自己のものにしている事実をはっきりと認識することができたのである。
それを具体的に述べるならば、この演奏では、横山の表現力がさらに豊かさを増しており、その結果として表現のオーラやアピールの強さが圧倒的なレヴェルに達していることがうかがわれる。横山ならではの緻密で強靭なテクニックで綴られたこのシューマンでは、内蔵された音楽のエキスが非常に濃厚であり、細部の表情のコクが一層味わい深いものになっている様相をも感じ取ることができる。さらにここでは、時にクールな一面も感じさせた彼の演奏には意外なほどに、ダイナミックでスケールの大きい感情の起伏が開示され、デモーニッシュといえるほどに強烈な表出力が生まれているのである。ドラマティックな情熱のほとばしりが印象深いソナタの第1楽章などは、その典型的な一例であるが、独特の表現の彫りの深さや生々しい人間味もが目を引くこの新録音では、巨匠と呼ばれるにふさわしい横山の新しい姿が写し出されているように思われる。